「じわじわっと心から温まる」さだまさしの小説(解夏・秋桜・水底の村・サクラサク)の感想

さだまさしさんと言えば、歌手のイメージが強いですが、
小説家としても、とても素敵な小説をたくさん書いてくれています。読んでいると何だか心が温まってくる小説をたくさん書いてくれています。
心温まりたいときに読むべき、小説家・さだまさしのおススメしたい小説を書いていきます。

解夏

完治すると眼が見えなくなる病気であるベーチェット病を患い、田舎に帰って暮らす男性の日常を描く小説。
特に劇的な展開があるわけではないが、ベーチェット病が発覚してから視力が失われるまでの、主人公の心情がとても丁寧に描かれている。主人公の切ない気持ちや、無理やりにでも前向きに捉える強さなどが痛切に伝わってくる。ベーチェット病を患っていないため主人公の気持ちが分かるというのはおこがましいかもしれないが、主人公の気持ちになり切って読み切れるタイプの物語だと思う。
そういう気持ちで読むから、主人公の周辺人物が、愛に溢れた人物が多いことが、とても有難く、心温まる気分になる。

      • 病気のことを直接聞かない母親
      • ベーチェット病と知っても田舎までついてきてくれる恋人
      • 恋人の父親であり、主人公に娘を紹介してくれた大学時代の教授
      • ベーチェット病と診断し、本人に伝える小学校時代の友人である医者
      • 気丈にベーチェット病の体験を共有してくれたベーチェット病患者
      • ベーチェット病が発覚するまで勤務していた小学校教諭時代の生徒達
      • 田舎で散歩中に出会った老僧

みんなとても優しい心を持っていて読んでてほんわかとするし、主人公が優しい性格だからこそこれだけ周りの人たちに恵まれているんだなぁ、と主人公がまた更に好きになる。

この物語のタイトルにもなっている解夏は、散歩中に出会った老僧の話である。
とある宗派の仏教の修行が終わる日を解夏と呼び、苦しみから解放される日と言われている。主人公は今、目が見えなくなる恐怖に苦しんでいるが、それは、失明した瞬間に恐怖から解放されるとても苦しい修行である。その恐怖から解放される日が、主人公にとっての解夏である。

そんな話を聞いて、主人公の心は穏やかになっていく。そして、とても静かに、失明をする。

とても切ない物語だが、とても心温まる物語である。

秋桜

日本の農家に嫁いだフィリピン人女性の話。フィリピン人は性を売り物のしているという根強い偏見や差別と葛藤するフィリピン人女性と、そんな偏見や差別から彼女を護ろうとする夫や義父、義母の話。

こちらも劇的な展開など何もないが、日常における人間の心の葛藤や差別、実は人間誰しもが持っている愛情のようなものを、温かく描いてくれていて、読んでいるとなぜかほっこりとした気分になる物語。

水底の村

これはかなりの名作だと思います。
同窓会で再開した恩師に連れられて、幼馴染の元恋人である敦子が働くスナックに向かう主人公(純一)。十数年の時間は、二人の間にはそう簡単には埋められない溝があり、恩師が寝落ちして二人きりになっても会話すらできなかった。
幼い頃に父親を亡くし、ひとり親だった母親も男と家を出ていった過去を持つ敦子は、女優の夢を捨てきれずに上京し、主人公と恋人となる。二人の間に命を授かるも、若かった二人は子供を堕ろす。そこから関係がぎこちなくなり、敦子は所属していた劇団の男と共に行方をくらましていた。
スナックで再会した敦子には一人息子がおり、その名前が「純平」。敦子の心の中に、純一がずっといたことが分かる。純平曰く、父親は小さい頃に亡くなったらしい。
二人が生まれ育った村は、ダムの底に沈んでいた。しかし渇水により十数年ぶりに村が姿を現した。そのタイミングで村に向かった純平に呼び出された純一は、偶然にも敦子の母親である富士子と再会する。富士子は、敦子に謝りたい一心で生きている。その後色々あって、結論はぼやかして書いてはいるが、敦子も純平も純一も富士子も、それぞれを許し、愛することとなる。

人間には過去があり、少なからず誰かを傷つけたり悲しませたりして生きているが、それを許すことの素晴らしさがじわじわと伝わってくる。そしてその根源にある愛、親子の絆、同郷の絆と言ったものが、見事に描かれていて、ものすごく心が温まる。家族って素晴らしいなと改めて思う一冊。

サクラサク

認知症を患い始めた祖父、仕事で出生するも家族をほったらかしにしていた父親、認知症の義父が粗相をしても冷たく罵るほどに冷たい性格となってしまった母親、高校中退しバイトしながら暮らす落ちぶれ息子、小遣いをせびるときだけ愛想の良くなる娘で構成される、崩壊しかけた家族。

粗相の増えた祖父のオムツをこっそり購入して祖父の面倒や粗相の後始末をずっとしていたのが、落ちぶれ息子だった。息子のそんな優しさに気付かず、どうしようもない息子と決めつけていた父親だが、祖父から息子の話を聞き、息子と向き合うことで、息子の心の優しさに気付く。そして自分自身が家族と向き合っていないことにも気付く。そんな経緯で、祖父の記憶を取り戻すために家族旅行に出かけ、家族の絆を取り戻していく物語。

この物語のハイライトは何といっても息子の心優しさだろう。社会的に落ちぶれているようでも、こんなに素敵な人間はたくさんいるんだよ、親は子供と、家族と向き合うべきだよ、という作者のメッセージが伝わってくる。こちらも、家族の素晴らしさを伝えてくれる心温まる一冊。

以上4つの物語は、「解夏」の文庫本に掲載されている短編小説です。
これは、数年に一度読み返す価値があるほどの一冊だと思います。まだ読まれていない方は、是非読んでみてください。

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投稿者: コロッケ太郎

妻と息子と3人暮らし。週末に家族で遊びに出かけることと子供の昼寝に付き添って小説を読むことと美味しいコロッケを探求することがささやかな楽しみ。