「子供にけじめを語りたい」父親(遠藤周作)の感想

お薦め度

★★★☆☆

どんな人にお薦め?

  • 娘を持つ父親、母親。
  • 不倫をしている/しようとしている父親、母親
  • 「けじめ」について、息子や娘に語りたい人

感想

遠藤周作さんの作品は、作品の面白さも雰囲気もばらつきが大きいなぁと現時点では思っている。良くも悪くもである。最初に遠藤周作さんの作品に触れたのは、海と毒薬だったと思う。当時、学生だったと思うが、ちょっと重すぎる話でなかなか読みづらかったので、しばらく避けてきたが、深い河を読んでみて、あれ、面白いんだと思って、反逆とかは今一で、王妃アントワネットや沈黙あたりを読んでみたいなと思っている頃に、たまたまブックオフで安かったので、今回は父親を読んでみた。最近は家族愛の小説を読むと心に沁みる傾向があるため、そんな期待も込めて読んでみた。

で、「父親」に関する感想としては、まあ、面白さとしては普通かなとは思う。設定が不倫をする若い男女とその家族というごくごくありふれた設定ながら、話に引き込まれる感じはあったし、何より小説を通じて伝えたいメッセージみたいなものの軸がぶれずに語ってあるのが良い。「けじめ」について、息子や娘に語りたい人にとっても良いかもしれない。

あらすじ(ネタバレ注意)

主な登場人物は、父(菊次)と娘(純子)、そしてと母と弟と、娘の不倫相手である宗、父の初恋の相手であり娘の不倫相手の妻の母親である安西、と言った感じか。(さらっと書いたが、結構ひねくれたいかにも小説っぽい設定ではある。勿論、この構成が明るみに出るまでには、サスペンス的要素もあって楽しめる)

娘は、妻子ある男性と不倫の恋に落ちる。男性は男性の妻と別居中である。

父は、戦争を経験した世代であり、戦死した友人のためにも、しっかりとけじめをもって生きること、日本を立派な国にすることを考えて生きている。家庭においても娘や息子にけじめの大切さを説いてきたし、仕事でも、儲け主義ではなく、本当に良いもの、世の為になるものを作って売るという信念をもって働いていた。会社では、出世欲や社内政治と言ったいざこざに巻き込まれ、本当に良い商品を作るという信念を貫いたが事業に失敗し、けじめをもって退職する。

そんな父が、娘が妻子ある男性と付き合っていること、ましてや結婚することを認められるはずはなく、父と娘、娘と男性、父と男性、父と母、娘と弟といった人間関係、感情の動きを中心に語られている。

ちなみに父が学生時代に恋をした女性(女性は婚約者が既にいたため諦めた)の娘が、父の娘の交際相手の妻の母親であるのは、冒頭に述べたので割愛する。

父を筆頭に家族に反対されながらも、意気地になった部分も少しはあるが、どちらかというと本気で恋に落ちていく娘。そんな娘に対して、けじめを伝えねばならぬと思う気持ちと、何より娘の幸せを願う気持ちが入り交ざって葛藤する父親。妻子ありながらも娘(純子)に対する恋に燃える一方で、妻や子供のことを完全に忘れられず、よく言えば優しさだが弱気で男らしくない一面を見せる宗。

ゴリラ
ゴリラ
昼ドラっぽい。

大まかなストーリーとしては、まず純子と宗が激しい恋に落ち、親の反対も押し切る勢いで深みに嵌っていくが、宗の妻が交通事故にあって入院したことをきっかけに宗の気持ちが徐々に揺らぎ、結局は、宗の娘と息子のことを裏切れない気持ちになり、宗と純子の恋は終わり、純子は失恋の一人旅に出かけ、状況を知った父は娘の旅先に出かけ、慰めや、けじめの大切さ、家族の愛情などを伝える、ということになる。妻が入院している間、看病に宗が行くと、看病といえども母と父が一緒にいることがとにかくうれしい子供たちの表情や態度を見ると、心が揺らいだのだという。宗の父親としての父性が呼び出された瞬間だろう。とても共感するし、そう考えるとやはり不倫は悪であると思う。

父が、別れたことを知った後に、宗や純子にそれぞれ語る言葉も重みがある。けじめの大切さを語るときに、「人の悲しみを考えなかった、想像しなかったことこそが問題である」、「自分の考えが正しいと信じすぎて、負の側面を見失ってはいけない」、そんなことを語っていたのが印象的である。仕事でも家庭でも自身の恋でもけじめを貫いてきた父の発言だからこその重みもある。これこそが筆者が伝えたかったメッセージだろう。

また、「自分の娘だけは世間や人間のイヤな部分は知らないでそのまま育ってほしい」、「あんな結果の為に、今後の人生や人間に不信感を持ちはしないかと心配だ」という発言も、父から娘への愛を感じてぐっとくる。

「自分の娘だけは世間や人間のイヤな部分は知らないでそのまま育ってほしい。」これは一人の父親として本当にそう思うし共感する。映画だと”ライフイズビューティフル”とかがまさにそんなメッセージを伝えてくれているけど、自分の子供に対してそう思うことが、世間や人間のイヤな部分を少しでも良くしたい、という考えや行動につながるんだと思う。(全員がそんな愛情に駆られて行動したら、世界は変わるかもしれないなーと思ったりもする。)

飛躍しすぎ!
ミーアキャット
ミーアキャット

というわけで、不倫という行動を通じて、けじめの大切さと親子愛を伝えてくれる小説でした。

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投稿者: コロッケ太郎

妻と息子と3人暮らし。週末に家族で遊びに出かけることと子供の昼寝に付き添って小説を読むことと美味しいコロッケを探求することがささやかな楽しみ。