お薦め度
★★★★☆
感想
それぞれにコンプレックスや人に言えない隠し事を抱えた20代男女4人の温泉旅行。
元カレ、元カノ、妄想癖、ヘビースモーク、勃起不全、性癖、整形、借金、薬物・・・とまぁ色々とドロドロな闇なアイテムと交えつつ、彼らの内面の悩み、心の弱さ、または心の強さ、もたれ合い、憎しみ、狡さ、友情、愛情などが描かれる。そして彼ら4人以外も登場人物はそれぞれにやっぱり闇を抱えていて、いたるところに人間のドラマが散りばめられているので読んでて飽きない。
色々なドラマ性が出てくるけれど、明らかに物語だけの世界だよね、という感覚はなく、むしろそれぞれの内面の悩みや弱さや狡さは、とても現実的だし共感してしまう。
漁港の肉子ちゃんの後書きでも、「色々な肉子ちゃんを描くことが小説家としての使命の1つ」と西加奈子さんが書いていたが、この小説でも、人に言えない悩みやコンプレックスを抱えながら生きる若者達を、それぞれの心やその葛藤を中心に描いてくれている。
ひとりひとり、誰もが良くも悪くも個性を持っていて、コンプレックスを持っていて、悩みを持っていて、他人をだましたり愛したり偽りの恋をしたり、色々な関係があるけど、やっぱり一人では生きていけなくて、支え合いながら生きているのだ。
物語では、暗部を中心に描かれつつも、「あいつに全て打ち明けたい・・」、「あいつと語り合いたい・・」と、彼らが一人では生きていけず誰かに頼りたいと感じている部分などが描かれているからか、ドロドロなアイテム満載な物語だけどなぜか前向きなメッセージを受け取ってしまうのだろう。
結婚もしていない若者4人の温泉旅行(ダブルデート)というシチュエーションだけで、こんなにも人間の内面をドロドロと描けるってすごいなぁ。世界中にいる誰を主人公にしようと、西加奈子さんならこの物語と同様の深さで心の悩みや葛藤や汚さやコンプレックスを描いてくれるのだろう。逆に言うと、世界中にいる誰もが、それぞれ何らかの心の悩みや葛藤や汚さやコンプレックスを抱えながら、他の人と良くも悪くも色々なつながりを持ちながら、生きているのだろう。だから、自分自身に対しても、他人に対しても、外見内見問わず色々な個性を受け入れ、色々な人とのつながりを受け入れ、楽しく前向きに生きよう。
(とても叶わないけれど、いつか僕自身を西加奈子さんに書いてもらいたいとなぁも思う。人並み以上には捻くれた性格と狡く汚い心を持っているので、きっとドロドロに汚い心を見事に描いてくれるだろう。まぁそんな夢は叶わないので、自分自身の汚い心を使って勝手に物語を書いてみようかなぁ。)
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