朗らかさと鈍感さの裏に秘められる強さ~漁港の肉子ちゃん(西加奈子)の感想~

お薦め度

★★★★★

感想

底抜けに明るくて、でぶで、鈍感で、ある意味素直で、人の言葉を100%信じて、皆から愛される肉子ちゃん。

くだらない男に何度も騙され、借金を肩代わりし、風俗で働き、漁港の焼肉屋さんに落ち着いて娘と二人で暮らしている。

落ち着いた性格で洞察深い小学生の娘(きくりん、喜久子)は、きくりんの言葉を100%信じてきくりんの悩みや気持ちを感じ取れない肉子ちゃんを残念に思うこともありながら、ある意味自由気ままに生きている肉子ちゃんを羨ましく愛らしく思いながら学校生活を送る。クラスの女子たちの面倒ないざこざやいじめ問題などで憂鬱な気持ちになるときは、余計に肉子ちゃんのシンプルな性格を羨ましく、たまに疎ましく思いながら。

物語の8割は、そんな娘と肉子ちゃんを中心とした何気ない日常が描かれる。子供の可愛らしい悩みや、天真爛漫すぎて色々と面白い肉子ちゃんの1つ1つの行動、二人を取り巻く田舎暮らしの温かい人たちの話は、クスッと笑いながら温かい気持ちで読める。
あと、手持無沙汰になると変顔をしてしまう病気の二宮は物語全体にとても良い感じにエッセンスを加えてくれる。二宮がいるといないとでは物語がだいぶ変わっちゃうんじゃないかっていうくらい特筆すべき役割を担っていたように思う。特に何か事件を起こしたり何か大きな行動をしていたわけではないのだけど。こういう、隠れて貴重な役割をこなしている人って現実世界にも必ず存在しているよなぁとか思いつつ。

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以後、ネタバレを含みますのでご注意を★

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最後の方で、肉子ちゃんときくりんが二人で過ごすことになる経緯が明かされる。人を憎まず、言い訳をせず、目の前の現実を受け入れ、感情のまま精一杯生きる肉子ちゃんらしい、悲惨な過去が明らかになる。

きくりんは、肉子ちゃんが本当の母親ではないことを幼稚園の頃から気付いていたと。だって名前が同じ親子なんているわけないじゃんと。あ、、大の大人の僕はそんなことも気付かず、肉子ちゃんだったらやりかねないとか思って読み過ごしていたけど、冷静なきくりんにあっぱれ。

それはさておき、やっぱり一番の主題は、これだけ辛く悲しい理不尽な出来事を背負っていても、人を恨まず、明るく、娘(きくりん)を幸せにするため目の前のことに精一杯にに生きる、不幸感をオクビにも出さず、人を信じ続けて過ごしている肉子ちゃんの格好良い生き様だろう。

きくりんも、実の母親の無責任な行動を知り、実の父親も誰だかわからないという事実に直面しても、その事実を淡々と受け入れ、100%の愛情を捧げてくれた肉子ちゃんやさっさん(焼肉屋店主)らへの感謝の気持ちを持ち続け、しっかりと伝えている。子供ながらに、とても優しく格好良く頼もしい生き様である。

そんな人たちが日本、世界には沢山いて、そんな人たちによって明るく平和な家族や社会が成り立っているのだと。というか多かれ少なかれみんなが肉子ちゃんなのであって、理不尽なことや気に入らないことや悲しい出来事があっても他責にせず、目の前の現実を受け入れ、それに対して少しでも良い方向に行くために行動をし続ける、それを楽しみながら、明るく素直に生きること、そういうことが、人生においては大切だよね、というメッセージを受け取れる。

もう一つのメッセージは、「お前は望まれて生まれてきた」ということだろう。どんな人であれ、親からの愛情を受けて生まれてきている。そうでないとあんなに辛い妊娠を乗り越えられないのだから。母親に捨てられたり、離れ離れになったり、そういう不幸に見舞われる人もいるかもしれないが、根本には母親の愛情の土台の上に産まれてきているはずである。だから、自身を持って、自分らしく、明るく楽しく生きなよと。

笑顔で明るく今を過ごすこと。人を恨まず、人を信じ、自分の思ったまま行動すること。これができればあとはどうにかなるので、楽しく充実した人生を過ごせるはずだよ。という気分になれるとても暖かい一冊。

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投稿者: コロッケ太郎

妻と息子と3人暮らし。週末に家族で遊びに出かけることと子供の昼寝に付き添って小説を読むことと美味しいコロッケを探求することがささやかな楽しみ。