多様性とアイデンティティと私の存在意義と~ i アイ(西加奈子)の感想~

お薦め度

★★★★☆

感想

世界には色々な生い立ちや境遇、思想、容姿、性別の人がいて、それぞれみな個性・アイデンティティを持っている。時に、自分自身の存在価値とかアイデンティティを見失いこともあるかもしれないが、他の人の個性を受け入れることで、他の誰かから自分を受け入れてもらい、それによって自分が自分自身を受け入れることができる。だから、他人を愛し、自分自身を愛そう。そんな物語だと思う。

西加奈子さん特有の畳みかけるような言葉は相変わらず強力で引き込まれるし、読んででグサグサと心にメッセージが刺さってくるのは、サラバの時に感じた気持ちと同じだった。サラバを初めて読んだ時ほどの衝撃では無かったが、西加奈子さんの小説を読むときの期待値を裏切らない素敵な小説である。

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以後、ネタバレを含みますのでご注意を★

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シリアで生まれ、アメリカ人の父と日本人の母のもとに養子として受け入れられて、優しい両親のもとで、豊かで安全に不自由なく暮らしている曽田アイ。

高校数学で複素数i(アイ)は存在しないと言われ、それがずっと心に残ったまま、恵まれた自身の環境を思い、「なぜ私がこの優しい両親に選ばれる運命だったのか」、「私が選ばれたことで、その分苦しんでいる人がいる」、「私は幸せになって良いのだろうか」、とアイは自身の存在意義を問いかけ続ける。

そんな繊細な感情を持つ彼女には、9.11事件のようなテロや東日本大震災のような災害を他人事として捉えることはできず、「私が生き残ってしまった」と苦しみ、災害やテロの死者の数をノートに書きこむことが癖になっている。

アイは、高校でレズビアンのミナと出会い、親友となる。ミナはアイのすべてを受け入れてくれ、ミナはアイにとって心の拠り所だった。大学で数学に没頭したアイを取り巻く世界は、災害やテロ、戦争といった問題が発生する。シリア出身のアイには、特にシリア内戦には心を痛めていたようだ。

そんなアイにもお互いを受け入れて愛し合う相手ができ、結婚し、妊娠し、、しかし流産する。そんなとき、レズビアンのミナがアイの初恋相手との子供を妊娠したことを知る。アイはとてもショックを受け、心が壊れていくが、愛するユウとの会話などを通じて、もう一度ミナを受け入れることに成功する。そしてミナに受け入れられ、アイは自分自身の存在を確認する。

そんなストーリーだったかと思うが、一番印象に残るのは最後の方の西加奈子さんの畳みかけてくる言葉のメッセージだろう。すべてのストーリーはあの畳みかけるような言葉達のためにある。と僕は勝手に思っている。

とはいえ、今を生きる人にとってリアルタイムの物語なので、世界を取り巻く問題(実際に起こっている災害や戦争といったリアルな問題と、愛や人々のな心のつながりが少なくなって生きているという西加奈子さんの主観を含む問題)の表現がとてもリアルである。そのリアルな問題の上で、強烈なメッセージを伝えてくれるから、直接的に言葉が響いてくる、そんな気がする。

多くの日本人と同じように僕はとても恵まれた家庭、恵まれた環境で育ったから、アイとは境遇は違うし悩みの深さも違うと思うけど、自分自身の存在意義が分からなくなることはよくある。だけど、その悩みに真剣に向き合うことが辛くてついつい目の前のことに集中したり、なんだかんだ自分に言い訳して悩むこと自体を辞めてしまうことが良くある。勿論、ある程度の割り切りも生きていく上で、家族を築いていくうえで大切なんだとは思うけど、やはり「自分自身は何故生きているのか」というこの永遠のテーマには目を背けずに自分自身しっかりと向き合っていくことが大事だなぁ、と感じた今日この頃。

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投稿者: コロッケ太郎

妻と息子と3人暮らし。週末に家族で遊びに出かけることと子供の昼寝に付き添って小説を読むことと美味しいコロッケを探求することがささやかな楽しみ。