お薦め度

★★★★★

どんな人にお薦め？

• • 子育て世代で、子供の心の悩みが心配な人
  • 子供がいじめで悩んでいて、どう手を差し伸べれば良いのか迷っている人
  • 教育に携わっている人、または子供が好きな人

あらすじと感想

湊かなえさん作品の中では珍しく希望が見える一冊だと聞き、明るい文章を期待して読んだ。明るい話ならこの作品には読んでいて辛くなる児童虐待のシーンは出てこないかなと思っていたが、そんなはずはなかったｗ

よくもまぁこんなにに不幸な子供や家族を描けるものだと感心してしまう。全体的にはやっぱりイヤミス。でも最後まで読むと、確かに、ある意味で一筋の希望や光は見える。
・とんでもなく不幸な境遇にいる人たちの中にも、優しく強い心を持ち続けている人もいるし、そんな人と触れることで優しい心を取り戻す人もいる。
・とんでもなく不幸な境遇でも諦めずに明るい未来を切り開ける人もいる。

自分自身や自分の家族、自分の周りの人たちが、こんな不幸な出来事や境遇に巻き込まれるようなことがあっても、未来を信じ前向きに行動しようと思える。
少なくとも、万が一自分の子供がこんな不幸な境遇に巻き込まれるようなことがあったら、この本の一部の登場人物のように強い心で優しく前向きに全力で立ち向かおうと思える。

---

以下はネタバレを含みますので未読の方はご注意ください

---

しかし、湊かなえ作品に共通するが、よくもまぁこんなにも不幸な境遇、不幸の連鎖を描けるもんだと感心する。今回はあまりに関心したので、僕の中で印象に残っている登場人物たちの相関図を書いてみた。
（色分けは、生存者/死亡者に加え、心が生きている/心が死んでいるの観点で勝手に分けている)

 

改めて、不幸の連鎖感が半端ない。こんな相関図を設計して文章にしてしまう湊かなえさんは本当にすごい。

今回の作品における不幸の根源は、虐待、DV、不倫、売春、いじめ、無関心、といったところだろうか。そして不幸に対するリアクションとして放火・殺人が絡むところが本書の特徴だろうか。

あとは、未来からの手紙が本物なのかというお題も含まれている。まぁ当然そんなことは起きないのだけど、それをわかっていても敢えて信じるという主人公の心の強さも見逃せない。また、最初のエピローグの意味が最後の方で明らかになっていくのだが、そのあたりの文章構成はさすがの一言。

相変わらず本当に嫌な気持ちになるのだけど、こんな境遇で耐えている人もきっといるということ、そんな中でもあきらめずに希望の光を見出すことは出来るということ、そんなことを感じられる一冊。
子供の成長はとても嬉しいけど、この子たちにもこの先きっと少なからず辛いことが待っていることを知っているから胸が苦しくなる。子育て世代はきっと誰もがこんなことをふと考えるのではないだろうか。子供たちが辛い状況になった時に親として出来ることは何か、そんなことを考えるきっかけを与えてくれる。
なので、特に子育て世代には、イヤミスだけどやっぱりお薦めしたい一冊。

その他のお薦めリンクはこちら★
カルボナーラ村長の読書備忘録

お薦め度

★★★★★

どんな人にお薦め？

• • 幼児から思春期の子供を持つ親、または思春期に差し掛かる若者
  • 愛する子供が何らかの傷を負って怒りや悲しみを抱える人
  • 愛する子供が他の子供に何らかの怒りや悲しみを与えてしまった人
  • 復讐について考えている人

感想

湊かなえさん、恐るべし、というか怖い。とても衝撃的な小説だった。終始怖くて、暗い複雑な気持ちになるが、途中で止めるわけにもいかず一気に読み切ってしまう不思議な一冊。

話は、中学担任教師の娘を殺してしまった中学生二人に対して担任教師が復讐を行うところから始まる。それを受けて壊れていく生徒とその家族（マザコンっぷりや親ばかっぷりが実に気持ち悪い）、復讐をものともせず新たな殺人を犯してさらなる罪を企てる生徒とその家族（マザコンっぷりが実に気持ち悪い）、そしてその新たな罪に対しても復讐を行う担任教師（執念が恐ろしいが、人間らしく母親らしく共感できる）について、その心情を中心に語られる。

中学生特有のバカらしさや幼稚さも存分に描かれているが、そんな幼稚さの結果として娘を殺されてしまった教師はとても辛かっただろう。そこから行われる復讐がとても冷徹で残酷なのだが、子供を持つ親としては、その復讐も当然とも思えるし、どれだけ復讐をしても悲しみや憎しみとか怒りみたいな感情が消えないだろうことは容易に想像がつく。

僕がこの小説から一番強く僕が感じたは、少年法への疑問だ。

残酷な復讐を通じて家族が壊れていったり、新たな被害者が生まれたり、兎に角読んでても泥沼感がありつつも描写もリアルでドキドキしながら読めるしミステリーとしても面白いのだけど、でもやっぱり物語のすべての始まりは中学生二人のイカれた神経が原因で起きてしまった少女殺人事件であり、そんな事件が起きてしまったらタダでは済まない。

犯してしまった方は少年法に守られて厳しくは裁かれないけど、被害を被った被害者やその家族の絶望や怒りは筆舌に尽くしがたい。

と、そんなことを考えさせられる。

自分自身はさすがにもうそんな事件を起こさない自信があるが、子供を育てる上では、間違ってもこんな過ちを起こそうという気を起こさないように、正しく見守ってあげないといけないと考えさせてくれる一冊。

——————————————————

以下は少しネタバレを含みますのでご注意ください★

——————————————————-

中学の担任教師の娘を殺めようと計画し実行しようとする期の狂った少年A、少年Aに唆されて一時の気の迷いから担任教師の娘を殺めてしまう少年B、一度は事故として扱われるその事件の真実を知り、犯人二人に対して残酷な復讐を企てる教師A、その教師の旦那でエイズに感染して余命わずかな世直し先生、世直し先生の教え子で偶然にも教師Aが担当していたクラスを受け持つこととなった教師B、殺人を犯した二人の母親達、あろうことか新たな殺人を企てて、結果的に少年Aに殺される少女D、が主要な登場人物。

少年Cを飛ばしたのは、差出人不明のメールに少年Cが微妙に登場していたから（あれは少年Aだったのかなぁ）

ストーリーに対して感想を書きづらかったので、それぞれの登場人物に対して持った第一印象をざっと書いておくことにする。

少年Aはただただマザコンで気が狂っているし、少年Bは本当に阿呆。教師Aの復讐への執念は恐ろしいが、娘を殺されたのなら当然のことと思えるし共感できる。少年Aの最後の企てに対して教師Aが出てきて更なる復讐を行うシーンは痛快でもあるし、教師を辞めた後もずっと少年Aや少年Bの行動を見張っていた教師Aの執念深さに恐ろしさも覚えた。教師Bは気持ち悪いが少年Aが言っていたように悪気はないので同情の余地はある。世直し先生は、娘を殺されてもそんなことが本当に言えるのか？という意味で、すごいというよりかは疑問を感じた。少女Dが実は狂った心の持ち主だったことはとても意外だったが、あれは一時の恋に血迷っただけと信じたい。少女Dが少年Aをマザコンと罵ったことであっさりと殺されてしまったのは不憫。少年Aの母親は暴力をふるっている時点で母親失格だし、少年Bの母親は親ばかすぎて気持ち悪いし罪も大きい。少年Bの姉はとても可哀想。

まぁとにかく冒頭にも書いた通り、

犯してしまった方は少年法に守られて厳しくは裁かれないけど、被害を被った被害者やその家族の絶望や怒りは筆舌に尽くしがたい。

それに尽きるかな。中学生・思春期特有の幼稚さ、いじめとかと交えて描かれているからなおさらそう思うのかもしれない。

しばらく読み直したくはないが、子供が思春期に突入したころには子供にも読ませて語り合う時間を持ちたいと思う今日この頃。

その他のお薦めリンクはこちら★
カルボナーラ村長の読書備忘録