お薦め度
★★★★★
どんな人にお薦め?
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- 小さい子供がいて、子供が可愛くて仕方ないお父さん、お母さん
- わが子の成長が何よりの生きがいなお父さん、お母さん
- 悪いことばかり想像してしまう人
- 能天気な人
感想
人間の葛藤、悩み、汚い心にすごく共感しつつ、
そういう状況に陥った際のマインドの持ち方に対してヒントを与えてくれる。
パンドラの箱の物語を例に、示唆してくれるて、
一人の父親として、色々と考えるきっかけを与えてくれる、素敵な一冊でした。
以下は、少し細かく感想を書きます。少しネタばれを含みますので、ご注意ください。
顔見知りのあの子が誘拐されたと知った時、驚いたり悲しんだり哀れんだりする一方で、わが子が狙われなくてよかったと胸をなでおろしたのは私だけではあるまい。」
こんなエピグラムからこの物語は始まる。
もうこの時点で、この小説が、人間の内面に焦点を当て、深い洞察が含んでいるのであろうと想像でき、楽しみな気持ちになる。
もちろん、以前に歌野晶午先生の小説を読んでいるので、面白いに決まっているという思い込みも含まれているが、喜んでページをめくる。本屋での立ち読みは、ここまでで十分である。
残虐な誘拐事件の描写からこの物語は始まる。
そして、近所で誘拐事件が起きているのに関わらずどこか他人事に感じている主人公とその家族の何気ない日常。
前述のエピソードから、この主人公と家族もこの事件に巻き込まれていくことは容易に想像できる。しかしその関わり方が・・・
歌野先生の本はいつもそうだが、読み始めると一気に読みたくなるあの感じががあった。まぁ、暫定的に、物語として面白い、と表現しておく。
そんなこんなで、私の期待通り、主人公の内面の悩み、葛藤、自己中心的発想、弱さ、などについて、主人公の妄想をベースに語られる。一人の大人として、自己中心的発想、弱さにすごく共感しつつ、
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- 息子を持つ父親として、もし自分が同じ境遇だったらどうするだろうか。
と考えたり、
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- さすがに同じ境遇とまではいかなくても、似たような悩みは多かれ少なかれ感じることになるだろうから、その時にどうすればよいだろうか。
と考えたり(こう考えること自体、エピローグをちゃんと読めと言われてしまいそうだが)
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- そういう悩みを少しでも未然に摘むため、息子娘の幼少期から、どのように接するのが良いか。
などと考える良いきっかけになる。
そして感想を共有したい。
最後は、敢えてそうしていると思うが、事実としての結論は曖昧に濁してあるようにも思える。事実は序盤に示したまま変わることは絶対にないよと示しているようでもあり、そうだとすると少し矛盾を感じる部分もあり、つまり事実と妄想の境目を意図的にぼやかして書いている。この表現に対しての批判や不満のレビューも多くみられるが、私はとても好きだ。事実と妄想って、きっぱりと境界線があるのだけど、4次元的に考えたらそうでもなくて、溶け込みあって存在していると私は思っているのだが、そんな曖昧な世界を小説という世界観の中で見事に描いてくれている。
さらに、最後に1シーンで、なによりも重要なことを、つまり、人間が悩み、葛藤しているときの発想方法のヒント、すなわち妄想に耽るにあたってのヒントというか、そういうことを伝えてくれる。
詳細は書かないが、そういう意味で、内面の弱さを自覚していて、悩んでいて、悩みに尽きないと感じているようなときにも、ぜひ読んでほしい一冊である。
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