コロッケ太郎の読書感想

ネット社会が浮き彫りにする人間の浅はかさと弱さ~白雪姫殺人事件(湊かなえ)~

お薦め度

★★★★☆

どんな人にお薦め?

    • ネット社会、SNS社会の誹謗中傷にうんざりしている人
    • 匿名性を利用して弱いモノいじめをしている人、
    • 匿名性を利用した弱いモノいじめを見て見ぬふりをしている人
    • 根拠の無い噂話をすぐに信じてしまう人

あらすじと感想

究極の美人が山奥でめった刺しにされた上に灯油で燃やされて殺害される事件が勃発した。当然のように、週刊誌やネット社会では男女関係のもつれや美人への妬みといった噂話や誹謗中傷が絶えない。一方で、真実はいかに・・という物語。

ミステリーとしてはそこまで深くないけど、とにかく湊かなえさんはネット社会、SNS社会の浅はかさとか薄っぺらさ、噂話にすぐに乗っかったり弱いモノいじめをしてしまう人間性を表現したかったのだろうと思う。そしてそんな社会に忠告をしてくれているのだろう。

ネットの恩恵と悪質性の両面をよく理解して活用していくことが、幸せに生きるために必要不可欠であり、むしろ幸せに生きるためにネット社会とどう付き合っていくのかという考え方が出来ていなければ不幸せになる可能性が高い。と、私自身はそう考えているし、湊かなえさんからもそんなメッセージを勝手にだけど感じられた。

そんなわけで、上に書いたお薦めのヒトには是非読んで欲しい一冊。


以下はネタバレを含みますので未読の方はご注意ください


美人でプライドの高い三木典子が殺害された事件を巡り、週刊誌やSNSで噂話が行き交う。勝手に容疑者にされて実名をさらされた人物に対しては、ここぞとばかりに関係の無い噂話や過去の行動が結び付けられてストーリーをでっちあげられる。そんな醜い社会を、実世界とネット社会の両面から描かれている。

相関図としては、こんな感じだろうか。白雪姫殺人事件_湊かなえ_相関図

あと、最終的に明らかにされていく真実も、どこか腑に落ち切らないところが、良くも悪くも湊かなえさんらしい。というのも、それぞれの人物の証言を照らし合わせても、どうも一本の線に繋がらない。大体のミステリー小説では最後に全ての伏線が一本に繋がって、なるほどー!となるんだけど、そうはならないのである。 色々な人物の発言が微妙に食い違っていて、それが嘘なのか、勘違いなのかは、はっきりしないというモヤモヤ感が残るのである。人間なので、きっと嘘も含まれているのだろう。

そんなモヤモヤ感も含めて、ネット社会の浅はかさや醜さを浮き出しているのかも知れない。ミステリ―の最後にはスッキリしたい気持ちもするけど、人間らしさが全面に出ていて、その弱さや、その弱さによって傷つく人の悲しさ、人を傷つけて生きる人の客観的に見た悲しさなどが表現されている。

スッキリとお薦めっていうほどでもないけど、どうでも良いいざこざに巻き込まれそうになったり、はまってしまいそうになったら読んでみるのも良いと思う。

人間の浅はかさが怖い・・
ゴリラ
ゴリラ

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身体的コンプレックスの連鎖が引き起こす悲劇~カケラ(湊かなえ)~

お薦め度

★★★★★

どんな人にお薦め?

    • 人を見た目で判断しがちな人
    • 身体的コンプレックスを抱えた人
    • すぐに他人をからかったり、ネタにして楽しむ癖のある人。
    • 教育に携わっている人、または子供が好きな人

あらすじと感想

極端な肥満体系にも関わらず運動神経抜群で友達も多く優しく活発に生きていた人気者の有羽。そんな有羽が高校生の時にまさかの自殺。有羽の自殺を巡る真実が、絶世の美人(元ミス・ワールドビューティ)で現在は美容外科医である橘久乃と様々な関係者との会話から明らかになっていく。そして真実の背景には、身体的コンプレックスや家族問題やいじめ問題が複雑に絡み合っている。

有羽の成長に欠かせないアイテムとなった手作りドーナツを中心とした温かいエピソードとともに、それを上回る不幸のエピソードが交互に語られ、そして少しづつ不幸が上回っていくというなんともイヤミスらしい話が展開される。


以下はネタバレを含みますので未読の方はご注意ください


有羽の自殺の背景には、湊かなえさんの作品らしく、コンプレックスや不幸やボタンのかけ間違いの連鎖がある。よくもまぁこんなにも伏線だらけの物語を書けるものだと感心する一方で、自殺のような悲劇が生じる際には、これに近い連鎖が実際にも起きているような気もする。
とにかく、伏線だらけの複雑に絡み合った相関図を描いてみた。小説を読み終えた人にとって振り返りのお供になれたら嬉しいし、読んでない人は相関図を元にそれぞれの物語を考えてみるのもきっと楽しいはずである。中心人物の橘久乃さんとの関係線が複雑すぎるため、物語の重要アイテムとなるドーナツになぞらえた「ドーナツ相関図」としている。

カケラ_湊かなえ_相関図

「整形」の持つ二面性を上手く使いながら、人間一人一人が持つ二面性が緻密に描かれ、その背景にはそれぞれの人が持つ身体的コンプレックスや家族問題が絡み合っているという物語。(身体的コンプレックスの連鎖が引き起こす悲劇)

家族の不幸や身体コンプレックスに負けずに前向きに生きていたのに、それを上回る不幸に見舞われる肥満の吉良有羽。

中学高校といじめられ、大人になって立ち直りかけたけど結局は子供時代のコンプレックスを最後まで引きずってしまう肥満の横網八重子。

失恋体験で養われた少し偏った正義感を他人に押し付け、無自覚に他人に不幸をまき散らす柴山登紀子。

昔の恋を忘れきれない堀口弦多。

整形を隠して帝王切開を理由に堂々と嘘をつく倖月沙良やあっさり騙されて自身も整形を施す如月アミ。

芯を持たずいつも皮肉な考え方に陥ってしまう結城志保。

不倫旦那への復讐に子供を巻き添えにしてしまう吉良千佳。

誤解が原因で友人を失い、無意識の体型差別で人を傷つけてしまう城山萌。

確信犯的二面性を有する美人すぎる橘久乃。

これらの人物たちの一つ一つの行動や考え方が悪い方向に重なり合い、悲劇が生じる。つまり、現実離れしているようで、割と現実的で身近な話である。

自分の行動も一歩間違えれば、他の誰かの行動と重なってしまえば誰かの不幸を引き起こすことも十分にあり得るよね、人をからかったりいじったりネタにしたりすることはしてはいけないよね、という教訓を得られる。

最後まで話が非常にダイナミックに展開されるので一気に読めてしまうとても面白い物語でありながら、意外と身近な人との会話とか態度が連鎖して誰かが不幸になるという不幸が生じるメカニズムについても再認識できる一冊である。是非多くの人に読んでもらいたい一冊である。

ドーナツ相関図って便利だな。。
ゴリラ
ゴリラ

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